焼石、そして
リメイク版
その四

銀明水に遊ぶ

銀明水はとても美味しい水がコンコンと岩の間から涌き出る場所です。
ここには山小屋もあります。
登山者の多くはここでほっと一息、背中の荷を降ろす場所でもあります。しかも、ここは焼石岳でも屈指の花の名所でもあります。
標高は1100mと少し。本来なら、まだ鬱蒼たる樹林帯の筈ですが、
さ〜すが焼石岳!
とその特殊性がいかんなく発揮されている場所でして、
ブナ帯の花と亜高山帯(ダケカンバ帯)の花、更にはそれより高所に位置するはずの雪田の花までが入り交じって咲く不思議なスポットなのです。
銀明水とはこんな場所。腰掛けの右側繁みに水場があります。
1990/06/23
ダケカンバの樹と横岳の稜線を望む。
1989/07/15
従って、花の種類はとても豊富です。
何故そうなのか。
それを解く鍵は、目前に仰ぐ横岳斜面の雪渓と豊富な雪融け水にありそうです。
そのお陰で6月から9月まで、間断無く花が咲き続けます。
春のイメージ、ミズバショウやリュウキンカ、梅雨のイメージのアヤメ(ヒオウギアヤメ)がナント8月になっても残ってるし、
ヒナザクラなど雪田の花も秋近くまで咲いてます。

量的には黄色い花が豊富で、まずはリュウキンカ。
リュウキンカのアップ。1992/06/27
続いて咲く黄は・・・。
ミヤマキンポウゲ
Ranunculus acris subsp. subcorymbosus var. nipponicus
1990/06/23


ミヤマキンポウゲの群生。
バックの山は左:天竺山、右:経塚山。
1990/06/23

小さな黄の間に大きな黄を見つけました
シナノキンバイとミヤマキンポウゲの群生。
天然の『イエロー・ガーデン』です。
1992/07/29
ミヤマキンポウゲとシナノキンバイ。
各々単独では区別しにくいのですが、このように一緒に咲くとその違いは一目瞭然。
前者は黄色く光沢のある花弁の外側に「がく」がある。後者は花に光沢が無くて、外に「がく?」が無い
(厳密にはシナノキンバイの花弁のように見えるのは、実は「がく」で本物の花弁はオシベのように変化している)
シナノキンバイ Trollius riederianus var. japonicus 
きれいな黄色の花びらは「がく」なのです。
1992/07/29
シナノキンバイのアップ。
花の中心にある橙色のオシベのようにものが花弁。
1992/07/29
シナノキンバイは日本アルプスでは白のハクサンイチゲとよく一緒に咲いていますが、
ここ焼石では咲く場所が別々です。丈も50センチから1mと高く伸び、日本アルプスのそれとは別種のようです。

次はシナノキンバイにヒオウギアヤメが混じって咲く珍しい花風景。
シナノキンバイとヒオウギアヤメ
1992/07/29
これはウサギギク。
ウサギギク Arnica unalaschcensis var. tschonoskyi
白いセリ科の名称は不明。1992/07/29
近くでは他に黄色のオオバミゾホオズキも見かけました。
これにトウゲブキや後で出てくるミズギク、ミヤマアキノキリンソウなどを加えると、この山は黄色い花が異常に豊富です。
ただ不思議なことに湿った高山に一般的なニッコウキスゲ(橙黄色)がありません。
近隣の和賀山塊や秋田駒、鳥海などでは豊富なのですが、この焼石と早池峰には何故か産しないのです。

なおここ銀明水には暦の縛りはありません。
下界のカレンダーでは、6月だろうが、8月だろうが、ここでは雪が融けた時が春。
早かろうが遅かろうが、春は春なのです。
この論理が理解できた方は真夏の山頂に駒を進めましょう。


8月婆さん復活

7月はひととき寂しかった姥石平も、8月近くなると、また賑やかになってきます。
ハクサンイチゲの二度咲きを皮切りに、
朱赤のクルマユリ、ピンクのハクサンフウロ、薄青紫のハクサンシャジン、クガイソウ、
黄のトウゲブキ、ミヤマアキノキリンソウ(コガネギク)、ミヤマキオン、白のミヤマトウキなどが次々と咲き出します。
白い小花はハクサンイチゲの二度咲き。
クルマユリもほんの少し混じっている。
クルマユリは年によって咲き方にむらがあり、この年は非常に少なかった。
1992/08/11

トウゲブキ、クルマユリ、ハクサンフウロなど。後ろの山は焼石岳本峰。
1992/08/11

ミヤマトウキ(イワテトウキ)
Angelica acutiloba var. iwatensis
他にハクサンフウロやトウゲブキ、ハクサンイチゲなども見える。
1992/08/11
クルマユリ Lilium medeoloides
手前の黄はミヤマアキノキリンソウ(コガネギク)、
奥の方はトウゲブキ。
1992/08/11
7月から咲き出したミネウスユキソウも見かけ上、まだ健在です。
ミネウスユキソウ Leontopodium japonicum f. shiroumense
1992/08/11

ミネウスユキソウは低山に分布するウスユキソウの高山型で、白馬岳や早池峰山にはいっぱいありました。
他の東北の山、例えば秋田駒ケ岳や鳥海山、月山にはもっとエーデルワイスに近い草姿の
ミヤマウスユキソウ(ヒナウスユキソウ)Leontopodium fauriei が分布しています。
焼石岳にも有ると聞きましたが、私はまだ見ていません。

地味な花でも、オヨヨッ(^^;と思うような意外な植物に出くわす点は
焼石岳の面白いところです。
オクキタアザミ Saussurea riederi subsp. yezoensis var. japonica
厳密にはアザミではなくトウヒレンの仲間なので触っても痛くない。
鳥海と焼石だけに産する。1992/08/11

オオレイジンソウ
Aconitum gigas var. hondoense

近くで見るとエイリアンの頭みたい。
1992/08/11

タテヤマウツボグサPrunella prunelliformis

ハクサンフウロ Geranium yezoense var. nipponicum

1992/08/11

オオレイジンソウ(花の中の距を確認していない為、エゾノレイジンソウ Aconitum gigas の可能性あり)
本来、樹林帯で他の草に寄りかかるように生えていますが、ここでは裸地を無雑作に這い廻ってるものもありました。
秋田側斜面や湯田コースで多く見られます。
ここのタテヤマウツボグサは白馬(八方尾根)で見たものに較べると、花が小さく、色も薄くなっています。ミヤマシオガマとは逆パターンです。

頂の秋田側(西側)には、小規模ながら、崩壊斜面があります。
ここでは、先のハクサンフウロ、ハクサンシャジン、ミヤマアキノキリンソウ(コガネギク)など一般的な花の他に、
イワオウギ(白)、タカネナデシコ(ピンク)、カンチコウゾリナ(黄)、先のオオレイジンソウなどが見られます。
いずれも東北では比較的珍しい種類です。
イワオウギ Hedysarum vicioides
1992/08/11

タカネナデシコとハクサンシャジ
1992/08/11

タカネナデシコ Dianthus superbus var. speciosus 
1992/08/11

クガイソウとクジャクチョウ

クガイソウ Veronicastrum sibiricum subsp. japonicum
低山でもときどき見かけるが、ここでは背が低く、50センチ前後しかない。
左側のセリ科はエゾニュウか。1992/08/11

以前、山頂の東斜面(胆沢川源流、焼石沼付近)では、ベコ(南部短角牛)が放牧されておりました。
秋田(東成瀬村)側から登ると、「こんにちわ」と寄ってくるベコをいかにやり過ごすか、
生きたベコだけでなく、そのプロダクツをいかに踏まないように歩くかなどで(^^;)苦労したもんです。
このエリアは、その関係で植生がかく乱されており、一部の牧草や雑草が山頂近くまで駆け上っておりました。
タカネナデシコやイワオウギが、クローバーやオオバコと一緒に咲いていると言う嘆かわしい状況がある反面、
牛が食べないトリカブトやハンゴンソウ、アザミ類が繁茂し、それはそれなりにきれいでした。

私が登った頃を境にこの地での放牧は中止となりました。その後、10年以上、この場所は訪ねてないので、
植生がどう変わったのかわかりません。

次は「山頂に秋風立てば」です。
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(本頁は2010/08/15にアップしました。)