焼石岳の花図鑑4.秋田斜面、南本内岳編

(本頁は「焼石岳の花図鑑3.八月編」の続きです。)

【秋田斜面、南本内岳の花】

今までの三頁は主に中沼コースで見られる花を扱って来たが、焼石岳の西側、東成瀬コースや北側の湯田コースも面白い。
同じ山域とは思えないほど、違った顔ぶれの花が咲いている。特徴的な植物を咲いた順に列記してみる。
なお、東成瀬コースの八合目・焼石沼から、九合目・焼石神社までの南本内岳南西斜面を、ここでは、「秋田斜面」と呼ぶことにする。
行政上は岩手県なのに何故と思われるかもしれないが、東成瀬コースは唯一、秋田県(東成瀬村)から始まるコースであり、
この斜面からは秋田側がよく見渡せる。他にもそのように呼ぶ人が居たのをさいわいその呼び名を使わさせてもらう。

キヌガサソウは中沼コースにも少し生えているが、登山道から外れるので、見つけにくい。
東成瀬コースや湯田コースでは、登山道脇に咲いているで、比較的見つけやすい。

焼石沼付近のキヌガサソウ小群生。
2018/06/23

キヌガサソウ Paris japonica, Kinugasa japonica
まだ初々しい個体。
2018/06/23
エチゴキジムシロ Potentilla togasii だろうか。
2018/06/23

六月下旬、焼石沼の辺りでは、黄色い花がいっぱい咲いている。
当初、ミヤマキンバイの栄養の良いものかと思ったが、花がちょっとでかすぎる。
しかも小葉は三枚(⇒ミヤマキンバイ)ではなく、五枚あるので、真昼岳や秋田市の太平山でも見かけるエチゴキジムシロではないかと思う。
もしそうだとしたら、東北では最大規模の群生地ということになる。

焼石沼付近のエチゴキジムシロ?大群生。バックは三界山とモッコ岳。
2018/06/23

同じ場所が、十日後にはまた別の黄色い花に覆われる。

焼石沼付近のミヤマキンポウゲ大群生。バックは三界山。
2017/07/08

こちらは明らかにミヤマキンポウゲだ。
ミヤマキンポウゲとハクサンチドリは一般的な高山植物で、焼石では中沼コースにも多いが、
群生の規模では、焼石沼周辺には敵わないので、こちらで紹介した。

ミヤマキンポウゲ Ranunculus acris var. nipponicus
2017/07/08
ハクサンチドリ Dactylorhiza aristata
2017/07/08

同じ場所には、バラ科の白い花も群生している。
近くには、よく似たノウゴウイチゴ(花弁は7,8枚)も多いが、こちらの花弁は五枚。シロバナノヘビイチゴではないかと思われるが、
もしそうだとしたら新分布地ということになる(シロバナは福島から岐阜にかけての太平洋側に分布)。

白い花は、シロバナノヘビイチゴ Fragaria nipponica だろうか。
2017/07/08


初夏の秋田斜面には、エチゴキジムシロ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンチドリ、シロバナノヘビイチゴがやたらと多い。
こんなお花畑は他では見たことが無い。

イワハタザオ Arabis serrata var. japonica だろうか。
丈は40〜50センチ有った。秋田斜面上部に限定して生えている。
2017/06/17
ズダヤクシュ Tiarella polyphylla
この花は焼石全体で見られるが、焼石沼の群生はみごと。
2017/07/08

何故此処(焼石沼や秋田斜面)にこのような特殊なお花畑が出来たのか。
20年くらい前までこの場所は南部短角牛の放牧場になっていた(夏場のみ)。
当時、此処を通ると、ベゴがモ〜♪と鳴いてすり寄って来たり、その産物が湯気を上げていたりして (´π`;)たじろいだ記憶がある。
植物に関しても、おそらくは牛の好みを反映し、毒があるとか味が悪い、棘が痛いなど牛の嫌な植物だけが残って繁栄していた可能性が否定できない。
此処は牛の放牧圧によって、維持されてきた特殊なお花畑なのかもしれない。

シナノキンバイは日本アルプスではあたり前の花だが、東北では何故か少ない。
焼石では銀明水付近にも少し生えているが、秋田斜面や南本内岳の方が多く、登山道からも容易に観察できる。
先のミヤマキンポウゲとよく間違われるが、こちらは花が大きく、花色が少し橙がかっている。
実は花弁のように見えるのは萼が変化したものなので、ミヤマキンポウゲのように花弁の裏側に緑色の萼は見つからない。
秋田斜面には、両種が生えているので、比較してみたらどうだろうか。

シナノキンバイ Trollius japonicus
2017/07/08

白いセリ科はオオカサモチ Pleurospermum uralense
手前にクガイソウ(蕾)とシナノキンバイ。
2017/07/14
マルバダケブキ Ligularia dentata
2017/07/14

秋田斜面には、マルバダケブキが生えている。しかもここには同じメタカラコウ属のトウゲブキも生えており、場所によっては並んで咲いている。
両種は総苞の有無で容易に識別できる。

タカネスイバ Rumex montanus
地味だし、高嶺の花としての有難味は感じないが、
東北の山では珍しい。
2018/06/23
たぶんエゾニュウ Angelica ursina
秋田斜面には多い。バックは鳥海山。
2018/07/27


秋田斜面は盛夏になると花がすこぶる多くなる。
その立地やフロラ、相観から、植物生態学的には「亜高山帯・広葉草原」と思われるが、とにかく種類が豊富だ。
こんな場所は東北ではおそらく此処だけだろう(フロラだけ見ると、真昼岳の稜線付近に似ている。⇒こちら参照)

ミヤマトウキ(イワテトウキ) Angelica acutiloba subsp. iwatensis
2018/07/27

タカネナデシコ Dianthus superbus var. speciosus
2017/08/06
タカネナデシコに囲まれて、
カンチコウゾリナ Picris hieracioides var. alpina
2017/08/06

イワオウギ Hedysarum vicioides subsp. japonicum var. japonicum
2017/08/06

タカネナデシコ、イワオウギは東北では珍しい。
前者は他では、早池峰、真昼岳、朝日連峰くらい。後者は和賀真昼山塊、蔵王の一部(不忘山)、朝日連峰くらいか。

タカネセンブリ Swertia tetrapetala subsp. Micrantha
2017/08/06
ハクサンサイコ Bupleurum nipponicum
東北では珍しい。真昼岳南峰でも見かけた。
2017/08/06

タカネセンブリは以前、ヤケイシセンブリの名で呼ばれ、焼石岳の特産種と思われていた。ここでは南本内岳に多い。
なおタカネセンブリ自体、生育地は限られ、他には和賀岳、朝日連峰、北アルプス北部など。地味だが見逃せない花だ。

エゾシオガマ Pedicularis yezoensis
中沼コースや山頂付近にも多い。
2017/08/27
オオレイジンソウ Aconitum umbrosum
東北では月山や早池峰の中腹にも有る。
2017/08/06

クガイソウ Veronicastrum japonicum
秋田斜面に多いが、南本内岳山頂近くの名無し沼の群生はみごとだ。
2017/08/06

オニシモツケ Filipendula camtschatica
2017/08/27

オニシモツケは焼石のあちこちで見かけるが、秋田斜面や南本内岳の群生はみごとだ。

ミヤマキタアザミ Saussurea franchetii だろうか。
2017/08/27
ウスユキソウと
ウメバチソウ Parnassia palustris
2017/08/27

秋田斜面や南本内岳は、焼石岳の中でも特に花の種類が豊富だ。
行くたびに新しい種との出会いがある。「花の玉手箱」と呼びたくなるようなエリアだ。

今回、写真は省略したが、他に見かけた花を挙げると、
ベニバナイチヤクソウ、ミヤマオダマキ、ハクサンオオバコ、コバイケイソウ、オニアザミ、イワスカシユリ、センジュガンピ、
タカネアオヤギソウ、コカラマツ、タマガワホトトギス、フキユキノシタ、クロクモソウ、ヒメアカバナ、ウゴアザミ(前出)、
オクトリカブト(前出)、サラシナショウマ、ハンゴンソウ・・・。


次(秋、いにしえ)へ行く。
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(本頁は2019年3月5日にアップしました。)