焼石岳の花図鑑1.六月編 |
焼石岳は奥羽山脈の中ほど、岩手県の南西部にある地味なお山だ。高さは1500mを少し超える程度と低いが、
日本アルプスならば2500m以上の高所でないと見られない高嶺の花が豊富に見られる。
早池峰山のように固有種が無いのは残念だが、種類の豊富さ、お花畑の規模では東北でもトップクラスではないか(少なくとも奥羽山系では断トツ)と思っている。
そのフロラ(植物の種類)は近隣の栗駒山や秋田駒、岩手山など新しい火山とは異なり、
かえって少し離れた蔵王の不忘山、月山(こちら)、朝日連峰など日本海側の高山や、遠く離れた北アルプス白馬岳(こちら)と共通種が多いように感じる。
何故そうなのか。理由は定かではないが、勝手な推測をいくつか述べてみる。
姥石平越しに見た焼石岳山頂。
2017/06/17
山頂の東側、姥石平には広大な風衝草原が発達している。ここは冬の季節風が極めて強そうだ。
風で雪が飛ばされ、ハイマツや低木が生えにくい。そのため草原になっていると推測。
一方、その下の山腹、東側斜面には大量の雪が溜まり、日本海側第一線の鳥海山、月山の東斜面に迫るくらいの多雪地帯になっている。
そのせいか亜高山帯にアオモリトドマツなど針葉樹林を欠如している。
また焼石岳は火山だが、山体が古く、至る所に大小の凸凹地形がある。凹地の多くは、雪解け水が豊富なので、池や湿原になっている。
このような多雪気候と複雑な地形が、昔の寒冷な時代に広く分布していた北方系植物のシェルター(避難場所)となり、
現在でも数多くの高山植物を育んでいるのではないかと・・・。
本図鑑は、焼石岳の一般的な登山コースである中沼コース(一部ツブ沼コース)で見られる花を主体にしている。
それ以外には秋田側から入る東成瀬コース、北側の湯田コースも少しだが歩いてみたら、中沼コースには無い花がけっこう咲いていた。
同じ山なのにフロラが違うので、この二ルートについては、後の方で別頁にまとめてみた。
掲載順はおおむね、開花が早いものから、山の低い所から見られる花から並べているが、
開花期間の長い花や特徴的な一部の花は複数回登場させている。
植物名の同定にあたっては、手持ちの複数の高山植物関係書籍を参考にさせて頂いたが、自信の無い種類については、「〜だろうか。」と表現している。
正確な名前をご存知の方、また何か間違いにお気づきの方は遠慮なくご指摘頂きたい。
【六月の花】
焼石の花盛りは意外と早い。その中心は山頂のすぐ東に広がる姥石平。
中腹はまだ雪に覆われていると言うのに、そこだけは雪消えが速く、六月中旬には冒頭写真のようなお花畑が出来上がる。
が、図鑑の方は中腹に咲く花から始めて行く。
中腹の銀明水の前後にはまだ雪がいっぱい残っている。
2017/06/17
ミズバショウ Lysichiton camtschatcense
2017/06/17リュウキンカ Caltha palustris var. nipponica
2018/06/23
ミズパショウとリュウキンカはこの山にとにかく多い。
中沼のほとりなど低所では六月上旬に咲いているが、銀明水の上部や南本内岳の一部など、雪消えの遅い場所では、
八月お盆頃に咲いていることもあり、驚いてしまう。
年にもよるが、六月の中沼から銀明水にかけての登山道沿いにはリュウキンカの黄金の花道が出来ることもある。
ミズドクサ Equisetum limosum
中沼に多い。バックの黄花はリュウキンカ。
2017/06/17ツルキツネノボタン Ranunculus hakkodensis
2017/06/17
樹林帯の花たち
ミヤマカタバミ Oxalis griffithii
2018/06/23
シラネアオイ Glaucidium palmatum
2018/06/23サンカヨウ Diphylleia grayi
2018/06/23
オオバキスミレ Viola brevistipulata とノウゴウイチゴ。
焼石沼付近にて。
2018/06/23
ノウゴウイチゴ Fragaria iinumae
焼石沼付近にて。花弁は7.8枚。
2018/06/23アキタブキ Petasites japonicus subsp. giganteus
2018/06/23
標高約1400mの姥石平に到着すると、
まだ六月だと言うのに、雪は無く、ご覧のような花筵になっている。
2017/06/17
2017/06/17
姥石平から東焼石岳にかけての風衝地は、この時期、色とりどりの花に覆われる。
おそらく東北では一番、全国的に見ても屈指のお花畑ではないかと思われる(最近は温暖化の影響かササの進出で縮小気味)。
ただし期間は短く、六月の上旬に始まったかと思うと、下旬には早々に店じまいしてしまう(期間は年によって変動あり)。
その構成メンバーを紹介する。
ハクサンイチゲ Anemone narcissiflora var. japonica
とミヤマシオガマ。
2017/06/17ホソバイワベンケイRhodiola ishidae
2018/06/23
ミヤマシオガマ Pedicularis apodochila とミヤマキンバイ。
2017/06/17
ミヤマシオガマ Pedicularis apodochila (白花品種)
2017/06/17ミヤマキンバイ Potentilla matsumurae
2017/06/17
ミヤマシオガマは東北では、早池峰山、羽後朝日岳、焼石岳、船形山、月山だけに産する。
なおよく似たヨツバシオガマは焼石では見当たらない。
このメンバーの中では、
ユキワリコザクラの開花が一番早い。東北では少ない花で、他には岩手山と不忘山の一部くらいだろうか。
ユキワリコザクラ Primula modesta var. fauriei
とミヤマキンバイ。
2017/06/17
ユキワリコザクラ Primula modesta var. fauriei
とイワカガミ。
2017/06/17
イワカガミ Schizocodon soldanelloides
2017/06/17ミヤマダイコンソウ Geum calthifolium var. nipponicum
東北では少ない。他には、秋田駒ヶ岳、三ツ石山など。
2017/06/17
ムシトリスミレ Pinguicula vulgaris
他のメンバーよりやや遅れて咲き出す。
2018/06/23
この時期の焼石岳山頂部はまだ花が少ない。
イワウメ Diapensia lapponica var. obovata
2017/06/17クロミノウグイスカグラ(ケヨノミ)
Lonicera caerulea subsp. edulis var. emphyllocalyx
2017/06/17
他にはコメバツガザクラ、前出のミヤマダイコンソウを見た程度だった。
山頂北側の灌木帯ではサラサドウダンが早くから咲き出す。
サラサドウダン Enkianthus campanulatus
2018/06/23
この時期、他には、
姥石平〜山頂部で、ショウジョウバカマ、タカネクロスゲ?、チングルマ(後出)、ヒナザクラ(後出)、ミツバオウレンなど、
上沼付近でコバイケイソウ、樹林帯ではミヤマスミレなどを見かけた。
次(七月)へ行く。 管理者注:本頁の写真は(`◇´)何人たりとも無断使用はまかりならん!
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(本頁は2019年3月5日にアップしました。)