2011年ロンリーハーツ植物紀行
君はシラネアオイを見たか

古い話で恐縮、しかも個人的な思い入れ話で更に恐縮。
私がシラネアオイを初めて知ったのは、今から40年以上も前、たしか中学一年の時と記憶している。
2011年5月中旬、大館市N山にて
当時、山と渓谷社より「カラー山の花」という画期的な本が出版されたが、その中の或る頁に私の目は釘付けになった。
それがシラネアオイだった。この花、その2,3年前に買ってもらっていた植物図鑑(小学館の学習図鑑シリーズ)には載っていなかった。
こんなにでかくて綺麗な花が何故載ってなかったのか。それは当時の図鑑編集者の意図だったのか。

今、振り返れば、この植物図鑑に掲載されていた植物は東京近郊に生えているものばかりだったようで、
高山植物の項も東京に近い八ヶ岳や北アルプスなど中部山岳にあるものに限定されていた。
秋田のような裏日本や北国、南国の辺境に咲く植物に対しては、随分と冷淡だったように記憶している。

それはさておき、「カラー山の花」が画期的だったのは、大きくみごとなカラー写真。
それまでの図鑑と言えば、手描きの絵、それも一頁に10種類以上の植物を解説付きで紹介しているものだから、絵は小さくならざるを得ない。
それに対し、「カラー山の花」は、贅沢なことに一種類の植物に一頁を丸々使って、見開きで、各々その裏が詳しい解説になっていた。
当然、一冊で扱う植物の種類数はかなり限定されてしまうが、その演出方法は当時としては極めて斬新であり、迫力に満ちたものであった。

この本によると、シラネアオイは日光の白根山あたりに多産したのでその名がつけられ、
分布は北海道および本州北・中部で、産地はやや高い山地(北地では低山)から低木帯・・・とあった。
秋田の山にもあるのかもしれないが、当時の私にとっては「高嶺の花」、いや「白根の花」だった。
カラー 山の花
シラネアオイの載っていた頁。
こちらのものと較べると、花色は赤味が強い。
こんなみごとな花にいつか巡り会いたいものだと勝手に片思いしていたが、その機会はわりと早く訪れた。
確か翌年、中学二年の春5月。
たまたま横手の実家近くにある里山(近いと言っても(^o^;)自転車で一時間、更に徒歩で30分)を訪ねたら、そこに咲いていたのだ。
その地の標高は400m程度、笹薮の中に十数株あった。
まずは丈がけっこう高いのに驚いた。大きな株だと丈は50センチを超え、花のサイズもでかいものは10センチくらいあった。
当時は山採りを罪悪視する風潮もなく、当然のように私は2,3本引っこ抜いて庭に植えたものだ。
(その株はその後、数年間、庭に居ついたが、山で咲くものほどの感動は無かった。やはり山に置け白根葵)。

こんな素晴らしい花が咲くなんて、秋田の山も捨てたもんじゃない、いやそれを誇りとすべきだなんて勝手に思い込むようになったのはこの頃だった。
しかし、この思い込みは、早くも翌年6月に打ち砕かれた。修学旅行で北海道に行った時、途中立ち寄った函館山や札幌の藻岩山では、
斜面そのものがシラネアオイだったのだ。
上には上があることを知った。北地へ行けばこの花は高嶺の花どころか斜面にうじゃうじゃ、ごく当たり前の花だったのだ。
2011年5月中旬、大館市N山にて
20年くらい前の一時期、あちこちの山を歩き回っていたが、シラネアオイは(秋田では)割と普通に見られた。なので、この花を特別視する傾向は次第に失せてしまった。
しかし当時付き合っていた野草仲間のひとり(もろ山鳥派)は目の色を変えてこの花を、しかも白花を探し回っていた。
売れば、白花は一株5000円以上の値が付く(末端市場では優に一万円以上)とのこと。彼氏にすれば、シラネアオイは「高嶺の花」ではなく、「高の花」だったのだ。
その後の私は利殖の方向には向かうことなく、山歩きもしなくなり、園芸植物やガーデニングにうつつを抜かすようになった。

秋田の山では、シラネアオイは割と普通に見られると書いたが、どちらかと言えば、より深山で高所の方が個体数が多くなる。ブナ林の下にひっそりと咲くかと思えば、
渓谷の近くや雪崩の斜面などでは大きな群生を作ることもある。特に森吉山の上の方や秋田駒ケ岳西面の群生はみごとなものである。
ただしもっと低い山にも生えており、例えばこちらなどは標高わずか50mの里山に咲いていたもの。
いろいろなところで見かけている割には、何故かその写真はあまり持っていない。

2011年5月中旬のとある日、県北部の大館市に行く機会があった。
そこにあるN山は標高200m程度と低山ながらも、シラネアオイに関しては秋田県内でも有数の生育地ではないかと思われる。
シラネアオイの手持ち写真を増やすにはいい機会だ。
2011年5月中旬、大館市N山にて。
山は雑木林に覆われ、下にはヤマツツジなどが多く生えている。ほかのシラネアオイ生育地に較べるとやや乾燥した感じ。

シラネアオイの花のアップ。
四枚の花弁のように見えるのは萼。
こちらは剣咲きで洋風、ベティ・ブープみたい。

2011年5月中旬、大館市N山にて。

こちらも剣咲き

シラネアオイ Glaucidium palmatum は日本固有の植物で一属一種、従来はキンポウゲ科に分類されていたが、
田村道夫博士(大阪大学、近畿大学)らの研究で、他のキンポウゲ科には無い特徴を多く有することから、独立してシラネアオイ科とすることが提唱された。
そうなると一科一属一種となり、更に孤独度が増したわけである。
この植物の分布は少し変わっている。北限は北海道の夕張山地や日高山脈あたり、それよりも西南の北海道全域には広く分布するが、本州に入ると、日本海側に偏った分布となり、太平洋側の三陸沿岸地方では欠如している。関東地方では上越国境や日光白根山など限られた山域だけで、西南限は飛騨山脈に達している。総じて、雪の多いところを好むような分布になっている(右写真参照。堀田満・著、日本列島の植物、保育社・刊より無断抜粋)
日本固有で同様な分布パターンを有する植物としては、ほかにトガクシショウマ(メギ科)やオサバグサ(ケシ科)が知られている。いずれも被子植物としては最も原始的と考えられる群で、しかも近縁な植物が地球上のどこにも見つからないという奇特な植物である。
田村博士によると、シラネアオイはキンポウゲ科から分離したが、既存の植物ではツバキやオトギリソウの仲間に比較的近いのではないかとのこと。
昨年、千葉大学の安●教授にお会いした際、アメリカ合衆国の東部、アパラチア山脈でシラネアオイを見かけたとの話を伺い、吃驚した。
日本固有なのに何故米国に?と思ったが、調べてみると教授の仰ってたアメリカのシラネアオイとはヒドラスチス Hydrastis canadensis (キンポウゲ科で一属一種)のことではないか(例えばこちら参照)
確かに草姿はよく似ている。ただしこちらは綺麗な花弁や萼が無いのである。





N山は今まさに春爛漫、春紅葉の真っ最中だった。

異様に紅いカエデ。これは植栽らしい。

折角なので、他に咲いていた花たちも少し。
ミツバアケビの花 大型の花が雌花で小型のものが雄花。

ミツバツチグリ

ラショウモンカズラ キバナイカリソウ
花の終わったショウジョウバカマも入っていた。

他には蕾状態のヤマツツジを多く見かけた。秋田では珍しいヤブレガサも有った。
この山にブナは少なく、全体として乾燥気味である。それなのに、どちらかと言えば湿っぽい環境を好むシラネアオイが多いのはどうしてなのか。

行くよ〜
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(本頁は2011年6月11日にアップしました。)