早池峰山の花図鑑1.初夏編 |
早池峰山は花の名山として全国的に有名だ。
蛇紋岩という古く特殊な地質のせいもあり、
この山には、固有種(世界でオンリーワン!)や東北ではここでしか見られない、
或いはそれに近い花がいっぱい有る。
それらについて語った書籍は、以前は割と有ったように記憶しているが、ここしばらくは出ていない。
私自身の早池峰経験は、登山が僅か6回、それも一番楽な小田越コースばかり。
その程度のキャリアでこの山の植物を語るのは畏れ多いことだし、
それ以前に何を今更の感も否めない。
しかしながら、今回、一連の東北の山の花図鑑を作り出したら、
該当の山だけでなく、早池峰山のフロラや植生との比較も必要だと気づいた。
この山については多少無理してでも自分なりに整理しておくべきと思い、今回、作成に踏み切った。
本図鑑は、早池峰山の一般的な登山コースである小田越コースで見られる花を主体にしている。
本来ならもうひとつのメインルート、河原坊コースも歩いてみたいが、
こちらは2016年以来、登山道の一部が崩落し、通行できなくなっている。
この状況はまだしばらく続きそうだ。
北面の門間コース、平津戸コース、並びに鶏頭山への縦走コースは
自身の体力不足や駐車の問題もあり、まだ歩いていない。
よってまだ見ていない心残りの植物もあるが、
小田越コースに関しては、6月上旬から9月中旬までの間、ほぼ半月刻みで歩いており、
主だった花はほとんど網羅できたのではないかと思っている。
掲載順はおおむね、開花が早いものからとしたが、
開花期間の長い花や特徴的な一部の花は複数回登場させている。
植物名の同定にあたっては、既存の高山植物関係の図鑑以外に、土井信夫・著、「早池峰連嶺の花」(文化出版局)(絶版)を参考にさせてもらった。
またこの山の特異な植生の成り立ちについては、小泉武栄・著、「地生態学から見た日本の植生」(文一総合出版)をはじめとした同氏の著作も参考にさせて頂いた。
何か間違い等にお気づきの方は遠慮なくご指摘頂きたい。
【初夏の花】
概ね六月から七月上旬にかけて咲く花を扱ってみた。
早池峰山は太平洋側に位置するので、積雪量は少ない。
南面の小田越コースは、六月に入れば、雪を見ることはまず無い。
いち早く咲くのは・・・
ヒメコザクラ Primula macrocarpa
世界中で早池峰山と周辺の蛇紋岩地だけに生える小型のサクラソウ。
一見、東北の他の山に多いヒナザクラに似ているが、もっと小型。湿地ではなくガラガラの岩場に生育。
2017/06/06
ヒメコザクラ Primula macrocarpa のアップ。
開花期間は短く、ほぼ六月いっぱい。
2017/06/06ミヤマキンバイ Potentilla matsumurae
これはどこの高山でも見かける。
2017/06/06
小田越コースを行くと、歩き始めて30〜45分程度で、突然、森林(アオモリトドマツ林)が終わり、その先は大岩が累々と連なるようになる。
その地点の標高はちょうど1400m、一合目御門口とも呼ばれるが、他の高山に較べると、森林限界が少し早すぎる(低すぎる)ような気もする。
先のヒメコザクラやミヤマキンバイ、そして後出のチシマアマナなどの高山植物がこんな低い所からワッと現れるのは驚きだ。
小泉武栄氏によると、このコースではこの付近から、蛇紋岩(厳密には橄欖岩)が露出するようになるので、植生が大きく変わるとのこと。
一合目御門口付近から山頂稜線を仰ぐ。
早池峰山の小田越コースでは、この付近で突然、森林限界になる。標高は1400mくらいと聞く。
2018/09/11
蛇紋岩(厳密には橄欖岩)か。 ナンブイヌナズナの蕾モード
2017/06/06
ナンブイヌナズナ Draba japonica
早池峰山固有種かと思われたが、後に夕張岳、戸蔦別岳でも見つかった。蛇紋岩植物の一つ。
2017/06/29
キバナノコマノツメ Viola biflora
この山に咲く黄色いスミレは本種のみ。
2017/06/29チシマアマナ Lloydia serotina
東北では早池峰と八幡平のみとされる。早池峰では
ヒメコザクラ、ミヤマキンバイと並び、いち早く咲く花。
2017/06/29
中腹の五合目付近からイワウメが多くなる。
イワウメ Diapensia lapponica var. obovata とチシマアマナ。
2017/06/29
チングルマとイワウメ
2017/06/29
チングルマ Geum pentapetalum
2017/06/29この黒っぽい蕾は何だろう。
(右下の芽出しはミヤマヤマブキショウマ)
2017/06/06
六月早々に見た黒っぽい蕾が気になっていたが、下旬に訪ねたら、もう開花していて、カヤツリグサ科の仲間、タカネクロスゲと判明した。
地味だが、早池峰山にはこの植物がすこぶる多かった。
タカネクロスゲ Scirpus maximowiczii
2017/06/29
派手でよく目立つ花の一番バッターはミヤマシオガマ。
ミヤマシオガマ Pedicularis apodochila
東北では比較的少なく、早池峰以外は、羽後朝日岳、焼石岳、船形山、月山だけと聞く。
2017/06/29
ミヤマシオガマとミヤマキンバイ
2017/06/29
ミヤマアズマギク Erigeron thunbergii subsp. Glabratus
ミヤマシオガマと一緒。
2017/06/29
ミヤマシオガマの開花期間は比較的短いが、
ミヤマアズマギクとミヤマオダマキはけっこう長く咲いている(場所によっては八月にも)。
この三種は日本アルプスではそれほど珍しくはないが、東北では少なく(特にミヤマアズマギクは早池峰のみ)、揃って見られるのは早池峰だけ。
初夏の早池峰のお花畑が他の山と違う雰囲気なのは、この三人娘のせいかもしれない。
欲を言えば、ハクサンイチゲも欲しいのだが・・・(同じ蛇紋岩の山、至仏山には有る)。
ミヤマオダマキ Aquilegia flabellata var. pumila
2017/06/29ミヤマオダマキ
東北では他には北八甲田、不忘山などでも見かけるが、
数が多いのは早池峰山。
2017/06/29
ミヤマオダマキとバックにミヤマシオガマ。
2017/06/29
早池峰山にはイワベンケイの仲間が二種あるとされるが、
今まで見たのはホソバイワベンケイばかりだった。
ホソバイワベンケイ Rhodiola ishidae と思われる。
2017/06/29
ヒロハヘビノボラズ Berberis amurensis
一合目の森林限界付近に多い。
2017/06/29コミヤマカタバミ Oxalis acetosella
針葉樹林帯にて。
2017/06/06
初夏の樹林帯の愉しみのひとつはオサバグサ。
花咲く羊歯(シダ)とも呼ばれるこの植物は、意外にもケシ科で日本固有一属一種。
東北では少なく、比較的豊富に見られるのは真昼岳の周辺と早池峰の向かいに聳える薬師岳だ。
オサバグサの小群生。薬師岳の針葉樹林帯にて。
2017/06/29
オサバグサ Pteridophyllum racemosum
2017/06/06コケイラン Oreorchis patens
河原坊から歩き出すと、道路端にいっぱい。
2017/06/29
初夏に咲く花には、トチナイソウ、エゾツガザクラ、ヒメシャクナゲ、イソツツジ、ミヤマタネツケバナなども有るが、残念ながら未見。
なお奥羽山系に多いシラネアオイは早池峰山には産しないようだ。
次(2.盛夏編)へ行く。 管理者注:本頁の写真は(`◇´)何人たりとも無断使用はまかりならん!
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(本頁は2019年2月1日にアップしました。)