アポイ岳コレクション

北海道の日高地方、襟裳岬の近くに、アポイ岳という小さな山があります。
(アポイ岳の登山ガイドは北の家族さんアポイ岳登頂の巻 が良く出来ています。ルート図もご参考下さい)
アポイ岳(五合目付近より望む)
標高はわずか811mと低いのですが、高山植物の宝庫であり、ヒダカソウやエゾコウゾリナ、アポイアズマギクなど、
世界中探してもこの山にしか無いという珍しい植物(固有種)がいっぱいあります。
野草、特に高山植物ファンには涎タラタラ憧れの山ですが、いかんせん秋田からは遠すぎるし、
交通も不便なので、一生涯訪ねる機会は無かろうと思っていました。
ところが、ひょんなことから、この山に登る機会を得ました。
時は1993年6月中旬。当時、私が加わっていた秋田の野草愛好会でちょっと翔んでるお方がこの遠征を企画しました。
冗談半分に私も参加表明していたら、あれよあれよという間に車の提供者&運転要員として組み込まれてしまいました。
一行は約二十名(平均年齢、約60歳。私が最年少)。6月11日の昼過ぎ、秋田県庁を出発。青森からはカーフェリーに乗り、船中泊(ろくに眠れなかった)。
翌12日の早朝4時半頃、北海道室蘭に上陸。苫小牧まで高速道を利用、その後は一般道(200キロ近く)を東にひた走り。
朝8時にはなんとアポイ岳登山口に到着。距離からすると、ちょっと早すぎる感もありますが、
北海道ではそれがあたり前、何しろ高速道も一般道も車の速度がほとんど同じなんです。
郷に入っては郷に従い、地元の車の流れに合わせていたら、たまたまそうなってしまったのです。
登山口に着いたばかりの時はあいにく濃霧で何も見えなかったのですが、いざ歩き出したら、ドンドコ霧が晴れて来ました。
たぶん一行の中に強力な晴れ男か晴れ女が居たんでしょう。
初めは針葉樹林(アカエゾマツやキタゴヨウマツと思われる)で下草の中にはエゾオオサクラソウやミヤマハンショウヅルなど綺麗な花もちらほら。
歩き出して1時間も経った頃、林が切れ、急に視界が開け出しました。
標高で言えば400か500メートルくらいですが、ハイマツも現れ、辺りの景色は高山帯そのもの(右写真参照
エゾコウゾリナ チシマキンレイカ
エゾコウゾリナHypochoeris crepidioides(キク科)
アポイ岳とその近くのかんらん岩地帯特産。
一見、タンポポに似るが、よく見るとやはり違う。
朝、登る時は蕾だったが、帰りは写真のように開いてました。
チシマキンレイカ(タカネオミナエシ) Patrinia sibirica (オミナエシ科)
国内では北海道の高山にしか見られないオミナエシの仲間。
大雪山では平坦な砂礫地に生えていたが、ここでは岩の隙間から顔を出していた。

右端の赤味がかった芽はヒダカミセバヤ Sedum cauticolum思われる。

アポイカラマツ Thalictrum foetidum var.apoiense (キンポウゲ科)
アポイ岳以外では、道南の大平山(おおひらやま)だけに分布。
エゾキスミレ Viola brevistipulata ssp.hidakana (スミレ科)
アポイ岳をはじめとする北海道の超塩基性岩地帯に特産。
一般的なオオバキスミレ Viola brevistipulataが超塩基性土壌に適応して
変化したものと思われますが、雰囲気はだいぶ違います。
アポイカラマツ エゾキスミレ

ポイ岳で最もポピュラーな植物といえば、誰が何と言おうが言うまいが、
ヒダカソウ Callianthemum miyabeanum (キンポウゲ科)でしょう。
我々が訪ねた時期はモウ終わり頃と聞いてましたので、それほど期待してなかったのですが、
幸いなことにある種の工作(※)が奏効し、ご覧の通り、残花を幾つか見ることが出来ました。
※ある種の工作とは・・・
我々と一緒に登ったメンバーのうち、一番の秋田美人(ただし(^^;)かなりご高齢)が、これから仕事をしに山に入る監視員のおじさんと登山口でバッタリ遭遇。
その後、彼女はこのおじさんと付かず離れず、和気藹々で登山。秋田美人の熱情にほだされ、おじさんがチョロッと残花のあり場所を漏らしてしまった。
それを偶々、脇で私は聞いていたのです。ただ(^^;)残念なことに肝心のヒダカソウは思ったほど・・・うっ(^^;)これ以上は言うまい

ヒダカソウとエゾキスミレ アポイ岳の稜線
ヒダカソウとエゾキスミレ(左)

(^^;)ヒダカソウよりも感動したのはこちら
ミヤマオダマキ Aquilegia flabellata var.pumilla
高山植物としてはポピュラーな方ですが、東北地方では少ない。
近くに同じく青紫の綺麗なチシマフウロ
Geranium eriostemon
ssp.erianthumもありました。
アポイクワガタ Veronica schmidtiana var. yezo-alpina f. exigua
オオイヌノフグリの親戚です。登山道脇の裸地に埃を被りながら咲いてました。
ミヤマオダマキ アポイクワガタ


どうしてアポイ岳には珍しい植物が多いのでしょうか?

モウ博士だよ〜ん。私の手持ち資料によると、地質と地形、気象の三要素が絡んでいるようです。
まず地質的にはこの山は第三紀(約1500万年前)からある古い山であり、かんらん岩(一部、蛇紋岩)という超塩基性岩が露出しています。
この岩から出来た土壌はその名前とは逆に酸性で栄養分に乏しく、しかも普通の植物の生育には有害な金属イオンを多く含みます。
更にこの山は海に近い為、夏は濃霧で気温が低く、冬は積雪が少ない為、地温も非常に低くなります。
このように厳しい環境の場所には、普通の植物は侵入しにくいので、例えばヒダカソウのように氷河時代には栄えたけど、
その後、衰退してしまった植物にとっては、シェルター(隠れ場所)に成り得たのでしょう。
また後から入ってきた植物でも、例えばアポイアズマギクやアポイヤマブキショウマのように、
特殊な土壌や気象に適応するうちに、姿形を変化させてしまったものもあります。
アポイ岳はこういった特別な山なので、他の山に無い珍しい植物がいっぱいあるのです。
しかし、この山のお花畑は(^o^)ワーッキレー!と言うほど、花がびっしり咲いているわけではありません。
下の写真からもおわかりの通り、花影は至って疎らでした。集団美よりも個々の花をアップで愉しむタイプの山のようです。
アポイアズマギク

アポイアズマギク Erigeon thunbergii ssp. glabratus var. angustifolius
アポイ岳特産。ミヤマアズマギク Erigeon thunbergii ssp.glabratusに較べると、
葉(根生葉)の幅が狭く、花(舌状花)は白が多い。 
エゾタカネニガナ Crepis gymnopus
北海道の超塩基性岩地帯に特有。
名前も姿もニガナの仲間 Ixeris のようですが、
厳密には雑草ブタナや園芸植物モモイロタンポポの属すフタマタタンポポの仲間。
背景の紅はヤマツツジ。
アポイアズマギク エゾタカネニガナ

ヒダカソウやアポイアズマギクは期待していたほど綺麗ではありま・・。(^^;)言い方を変えれば、楚々とした花でした。
それにひきかえ、サクラソウの仲間は結構派手派手で見応えもありました。
サマニユキワリ Primura modesta var. samanimontana
ヒダカイワザクラ Primura hidakana
エゾオオサクラソウ Primura jezoana var. pubescens
サマニユキワリ ヒタ゜カイワザクラ
サマニユキワリ
岩の間からひょっこり顔を出し、愛嬌を振りまいてました
ヒダカイワザクラ  
名前のごとく岩場に生えてます。花は終わり頃で少し傷んでました。

エゾオオサクラソウ
山頂の林の下に群生してました。
エゾオオサクラソウ。右の白花はヒメイチゲ Anemone debiris
エゾオオサクラソウ エゾオオサクラソウとヒメイチゲ

この山は中腹にハイマツがあり、お花畑になっているのに、山頂付近は林(ダケカンバ林)でした。植物の垂直分布が逆転しているんです。
エゾオオサクラソウは登山口付近の林でも見かけたのですが、登りを急ぐあまり、撮影を見送ってしまいました。
しかし山頂の林でまた会えましたし、ゆっくり撮影出来たのは喜ばしいことです。
アポイ岳

さて、この山の下りですが、登りと同様、忙しかったです。
何故ならこの後に演歌で有名な襟裳岬も訪ね、今晩中に苫小牧の宿に入るスケジュールになっていたからです。
従ってアポイ岳の滞在時間は実質4時間程度。走りながらの撮影で写真としての質はご覧の通り、劣悪そのものですが、
記録としては割りと貴重なものかと思い、敢えて掲示しました。
襟裳岬は極めて濃厚な霧が立ちこめ、何も見えない初夏でした。寒い友達よ、欲張るのはヨクありません。
翌6月13日は帰るだけの一日でした。天気はまずまず。
当時、流行ってたドリカムを流しながら、高速で伊達まで走り、後は函館まで一般道。途中、羊蹄山や有珠山がよく見えました(写真は無い)
長万部の土産物屋で鮭トバや毛蟹を仕入れ、フェリーの中で酒盛り。青森に上陸したら、ついに雨が降り出しました。
雨脚は強くなる一方で、川の中を運転しているようでしたが、ナントカ無事、秋田まで辿り着きました。
同行の年配の方々をそれぞれの自宅に降ろし、帰宅したら夜9時頃だったと記憶してます。

1993年といえば、私は園芸を始めて二年目くらいだったと思います。
そちらに没頭すればするほど、当時の野草仲間達とは共通の話題がなくなってしまいました。
彼らと一緒に山を歩いたのは実質このアポイとそのすぐ後の白馬が最後だったと記憶しております。

本頁作成にあたっては、次の書籍資料を参考に致しました。この場を借りて御礼申し上げます。

◆豊国秀男・編 山渓カラー名鑑 日本の高山植物/山と渓谷社・刊

◆趣味の山野草(1985年4月号)アポイ岳の花の特集記事(写真、文:山崎隆)/月刊さつき研究社・刊

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(本頁は2001/02/03に初アップしました。)