秋田駒ヶ岳の花図鑑1.初夏編

駒ヶ岳のコマクサ古い話で恐縮。1990年代の初め頃だったか、
山と渓谷社が雑誌『山と渓谷』誌上で読者を対象に高山植物の人気投票を行ったところ、
堂々第1位に輝いたのは、コマクサだった。
さらに2、3位あたりにエーデルワイス類(ウスユキソウの仲間)とチングルマ、
少し離れてニッコウキスゲやイワカガミもあったように記憶している。
いずれも今回紹介する秋田駒で見られる花ばかりだが、
特に女王格のコマクサとエーデルワイス類(ここではミヤマウスユキソウ)が
一緒に観られる贅沢な山は国内広しといえども、秋田駒ヶ岳ぐらいではなかろうか。

この山、ほかにも花の種類が豊富であり、枚挙にいとまもないのだが、少々残念なのは特産種が無い点。
奥羽山脈に連なり、いまだに蒸気を吹き上げる新しい火山だから、それはしょうがないか。
しかしエゾツツジやイワブクロのように中部山岳に産しない北方系のキャラクターや、
タカネスミレのように分布が限られ、なおかつみごとに群生する花もある。
もちろんヒナザクラやトウゲブキ、ハクサンシャジンなど東北の高山常連メンバーもそろっている。

こういった花たちが阿弥陀池を中心とした半径わずか1.5kmの円内に
コンパクトにまとまって見られるのもこの山の特徴か。

日本アルプスならば2500m以上の高所でやっと面会できる高嶺の花達に、
ここでは、千数百mの高さでいとも簡単に面会できる。
緯度が高い分、高山帯が下がってくるのは当然だが、下がり方が少し激しすぎるような気もする。
それには冬の厳しい気候や地形、火山活動なども関係しているものと思われる。

我が郷土にこんな素晴らしい山があったことを改めて誇りに思う。
しかもかなり上まで車で行け、(八合目から始まる片倉コースならば)歩き出して
5分もしないうちに高山植物に対面出来る。
あとは1時間ちょっと重力に抗するだけで、山頂や核心部分に至るのだから、
私のような足弱不精者にはとても有難い山だ。

本図鑑は、秋田駒ヶ岳の一般的な登山コースである片倉コース(駒ヶ岳八合目からのコース)を通り、
男岳または男女岳山頂、大焼砂までの間に見られる花を主体にしている。
補足の意味で、ムーミン谷の愛称で知られる火口原・馬場ノ小路や横長根の稜線、側火山の焼森も歩いてみた。

掲載順はおおむね、開花が早いものからとしたが、
開花期間の長い花や特徴的な一部の花は複数回登場させている。
植物名の同定にあたっては、既存の高山植物関係の図鑑以外に、工藤茂美・著、『秋田駒ケ岳・花の旅』 (栃の葉書房)(絶版)、
田村武志・著、『秋田駒ケ岳花抒情』 (秋田文化出版)を参考にさせてもらった。
何か間違い等にお気づきの方は遠慮なくご指摘頂きたい。



【初夏の花】

概ね六月から七月上旬にかけて咲く花を扱ってみた。
その代表は、ご覧のように大焼砂などに群生するタカネスミレと思われるが、

タカネスミレ Viola crassa の群生。
大焼砂にて。奥に男岳。
2015/06/21

まずは登山口、駒ヶ岳八合目付近から始める。

ミヤマスミレ Viola selkirkii
2013/06/06
ハクサンチドリ Dactylorhiza aristata
八合目付近の道端には雑草のように生えているが、
それ以外の場所では疎らだ。
2015/06/21

コミヤマカタバミ Oxalis acetosella
2015/06/21
ショウジョウバカマ Heloniopsis orientalis
2015/06/21

イワテハタザオ Arabis serrata var. japonica f. fauriei
岩手山と秋田駒ヶ岳の特産と言われる。
2015/06/21

ゴゼンタチバナ Cornus canadense
2015/06/21
ムラサキヤシオ Rhododendron albrechtii
2015/06/21

マイヅルソウ Maianthemum dilatatum
2015/06/21
ズダヤクシュ Tiarella polyphylla
2015/06/21

秋田駒には黄色いスミレが三種類見られる。
歩き出してすぐ目につくのは、低山性のオオバキスミレ。

オオバキスミレ Viola brevistipulata
片倉岳展望台の手前に群生している。
2015/06/21

ノウゴウイチゴ Fragaria iinumae
2017/07/10

ミツバオウレン Coptis trifolia
1980年代、撮影日は不明。
ヒメイチゲ Anemone debilis
1980年代、撮影日は不明。

ミヤマウスユキソウ(ヒナウスユキソウ) Leontopodium fauriei
月山、朝日、飯豊など日本海側の高山には多い。
奥羽山系では秋田駒など限られた山でしか見られない。
2015/06/21

ハナヒリノキ Leucothoe grayana
2015/06/21
ハイマツ Pinus pumila
2015/06/21

横長根の稜線にて。

イワウメ Diapensia lapponica var. obovata
右上に咲くのは、ミヤマダイコンソウ。手前下にエゾツツジやホソバイワベンケイも見られる。
2015/06/21

コメバツガザクラ Arcterica nana
2015/06/21
コケモモ Vaccinium vitis-idaea
細かい葉はガンコウラン。
2015/06/21

ヒメイワカガミ Schizocodon ilicifolius かと思ったが、
葉の鋸歯が不明確だ。イワカガミ Schizocodon soldanelloides との雑種だろうか。
2015/06/21

キバナノコマノツメは、黄色いスミレでは、最も広く分布している。
風衝草原や低木の下に多い。
キバナノコマノツメ Viola biflora
2015/06/21

ホソバイワベンケイ Rhodiola ishidae
2015/06/21
タカネスミレとコマクサ。
この時期、コマクサは開花の準備中だ。
2015/06/21

大焼砂の斜面は、コマクサの群生地として有名だが、六月中はタカネスミレが凄い。
タカネスミレは岩手山にも有るが、これだけ密に大量に咲く場所は秋田駒以外に知らない。

タカネスミレ Viola crassa
2015/06/21

同時期、ミヤマキンバイも群生し、大焼砂は黄一色に染まる。

ミヤマキンバイ Potentilla matsumurae
この花は大焼砂以外の場所にも多い。
2015/06/21

この時期、他には、
八合目から片倉岳展望台付近で、ベニバナイチゴ、ウラジロヨウラク、ミネザクラ、サンカヨウ、イソツツジ、ミヤマダイコンソウ(後出)、
阿弥陀池周辺で早咲きのチングルマ、イワカガミ、ムシトリスミレ、ヒナザクラ(いずれも後出)なども見かけた。
なお阿弥陀池周辺のお花畑ならば、ポピュラーな高山植物ハクサンイチゲがいかにも有りそうな感じだが、
この花は秋田駒には自生しない(奥羽山系では羽後朝日岳、焼石岳、不忘山のみ)


次(2.盛夏編)へ行く。
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(本頁は2019年2月8日にアップしました。)